■2014年度 女子美術大学大学院「インタラクティブ空間演習」
講読のための用語集、他 glossary
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(「 ※ 」部分は石井による記述を示す)
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「記号」と「記号現象」について
※ 記号論が問題とする「記号」とは? ( =「記号現象」= 「記号過程」)
「記号論」が問題とする「記号」とは、「何かの代用」としての印、標識 (mark) ではない。単に「すでに定まった内容を慣習に従って何かが表しているというような『符号』ではない」(池上, 5) 。つまり、人間の世界を超えて、人間の存在より前にすでに意味を有する事物の存在を前提とした上で、そのような事物を便宜的に指し示すものとして生みだされたような「記号」(=符号) ではない (※ 記述途中) 。
「人間は、すでに慣習的に定められた『記号』をあやつるばかりでなく、新しい『記号』をせっせと創り出している」(池上『記号論への招待』5 )
「〔※人間が記号を創り出す営みにおいて〕いちばん基本になることは人間の『意味づけ』とでもいった行為 ――― つまり、あるものにある意味を付したり、あるものからある意味を読みとったりする行為 ――― である」(池上『記号論への招待』5 )
「人間が『意味あり』と認めるもの、それはすべて『記号』になるわけであり、そこには『記号現象』が生じている」 (池上『記号論への招待』5 )。
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「記号論の関心」とは?
「『言語創造』にも似た行為を、人間は絶えず、しかもその文化のあらゆる面で行なっている。その原型と本質を探ってみること ――― そこに現代の記号論は関心を向けるのである」(池上『記号論への招待』5 )
「人間の『意味づけ』する営みの仕組みと意義 ――― その営みが人間の文化をいかに生み出し、維持し、そして組み変えていくか ――― 現代の記号論はこういうことに関心を持っていると言いかえてもよいであろう」(池上『記号論への招待』5 )
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コード 【code】
「発信者と受信者の共通の理解に基づいた決まり」(『記号論への招待』47 )。
「伝達で用いられる記号の指定、とその記号の意味」(同前)。
「記号の結合の仕方の決まり」(同前)。
「『コード』には、記号とその意味、および記号の結合の仕方についての規定、、、が含まれる」【重要】(池上『記号論への招待』39 )。
※ 「コード」 = 文化的慣習。 イデオロギー ( = 思想風潮、いわゆる「空気」であり、そこにはしばしば政治性が含まれる )
〔「コード」の概念は、〕初めは工学の一分野としての情報理論の基礎概念として構想された。後に言語的コミュニケーションの解明のための
モデルとして言語学に取り入れられ、ひいては広く人間の言語的・非言語的記号行動の解明のために、記号論もしくは記号学
の領域における基礎概念の一つと見なされるにいたった (「コード / メッセージ 」『岩波哲学・思想事典』)。
【シャノンの工学モデル】
電話通信をモデルにシャノンはコミュニケーション・モデルを構想した。(略)。
伝達しようとする情報を発信地でチャンネルに乗りうる信号に変換する操作を「コード化」(coding) という。
目的地に届いた信号を理解しうる情報に変換する操作を「コード解読」(decoding ) という。このようにして取り出された
情報を「メッセージ」といい、これが伝達を意図された情報とひとしいなら、コミュニケーションが成功したと見なされる(同前)。
【記号論への適用】
この工学モデルを言語学者は人間言語のモデルとして採用した。ヤコブソンによれば、言語的コミュニケーションとは、
送り手が思想をメッセージに変換して受け手の側に伝達し、受け手がこのメッセージから送り手の思想を両者が共有する
コードによって復元する過程である(同前)。
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コンテクスト 【 context 】
文章の前後の脈略。文脈。コンテキスト (「コンテクスト」『広辞苑』)。
あるテクストを解釈するために不可欠なさまざまなテクストの総体。〈文脈〉〈脈略〉〈状況〉などと訳される。言語理論、
文学理論、解釈学などの領域におけるキー・コンセプトの一つ (「コンテクスト」『岩波哲学・思想事典』)。
「『コード』を超えようとする『使用者』と、『使用者』を拘束しようとする『コード』― このたがいに対立する両者の
間の緊張した関係が破綻に至らぬようとりもっているのが『コンテクスト』である」 (池上『記号論への招待』47 )。
「受信者の参照すべきものとして『コード』と『コンテクスト』とは、いわば相補的な関係にあると言うことができる。、、、
一方でメッセージが全面的に『コード』に依存して成り立っているならば、『コンテクスト』の参照は不要である。他方、逆にメッセージが全面的に『コード』から逸脱しているならば、『コンテクスト』を参照するより他はない」(池上『記号論への招待』47-48 )。
「『コード』への依存が減れば減るだけ、『コンテクスト』への依存度が高まる」(池上『記号論への招待』48 )。
「詩的なミュニケーション、子供のコミュニケーションなどは『コンテクスト依存型』である。それに対し、科学的なコミュニケーションは『コード依存型』が理想である」(池上『記号論への招待』48 )。
【「コンテクスト」の存在のしかた】 ( 以下3つは 池上 『記号論への招待』179 )
・「コード」の拘束力を強くして「メッセージ」の生成、解読を完全に排他的な閉じた過程とし、「コンテクスト」の介入を一切排除するような場合
・「コード」による「メッセージ」の生成、解釈を「コンテクスト」依存的なものとし、「コンテクスト」の違いに応じて「メッセージ」が異なる形で生成、解釈されるという場合
・「知識体系」と「推論」能力をもつ〈話す主体〉が介入し、「メッセージ」の生成、解釈が、「コード」と (狭義の) 「コンテクスト」、それに〈主体〉の「知識体系」と「推論」のぶつかりという様相の過程の場合
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テクスト 【 text 】
「なん人かによって〔※誰かによって〕そこから意味が読みとられることによって、一個の『表現体』―――『テクスト』になる」 (池上『記号論への招待』29 )。
「記号体系のなかには、『統辞的単位』に対してさらに『テクスト』という単位を区別して措定するのが便利なものがある
『テクスト』は『統辞的単位』から成るさらに高次の複合的な単位である。、、、『統辞的単位』自体がすでに『記号』の複合的な単位
であるから、『テクスト』という単位はそれ自体が複合体であるものから成る複合体ということになる」 (池上『記号論への招待』161 )。
「〔「テクスト」という単位での〕複合体を作り出せる記号体系では、『記号』の配列を規定する統辞規定の他に、それによって生み出された
『統辞単位』の配列を規定する一段と高次なレベルでの統辞規定 ( 「テクスト統辞論」) のあることが予想される。このような記号体系では、『テクスト』がメッセージとしての基本的単位となる」( 池上『記号論への招待』161 )。
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「統辞的単位」とは ?
※「記号」の配列を規定する統辞規定によって生み出された、複数の記号による〈かたまり〉のこと (※ 例えば、主語+述語からなる「節」、または「句」など) 。
(ソース)
「〔「テクスト」という単位での〕複合体を作り出せる記号体系では、『記号』の配列を規定する統辞規定の他に、それによって生み出された
『統辞単位』の配列を規定する一段と高次なレベルでの統辞規定 ( 「テクスト統辞論」) のあることが予想される」( 池上『記号論への招待』161 )。
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メッセージ 【 message 】
「伝達を行いたいという人は、伝達内容を、、、何らかの方法でその存在を知覚できるようなものに直さなくてはならない。つまり、伝達するためには、思ったり感じたりしている事柄を表現する ( 文字通り、『表に現わす』) ということが必要である。そのようにして表現されたもの」 (池上『記号論への招待』38 )。
「『メッセージ』は、、、何かを意味するもの、すなわち『記号』により構成されていなくてはなら」ない ( 池上『記号論への招待』39 )。
「『メッセージ』を構成する記号とその意味は、、、受信者との共通の了解に基づいた決まりに従っていなくてはならない。そのような決まりが『コード』とよばれる」(池上『記号論への招待』39 )。
メッセージには、「『意味作用』が存在しているはず」 (池上『記号論への招待』39 )。
※ 池上は、「メッセージ」を、複数の「記号」(意味を持つ語、単語など) が、並べられることで構成されたものを指しているようだ。文 (節) のようなものか。 例:「メッセージを構成するのに用いられる『記号』」(池上『記号論への招待』67 )。
「〔※〈主体〉による「知識体系」と「推論」という存在 〕その介入のもとでは『メッセージ』の生成、解釈は、『コード』と (狭義の) 『コンテクスト』、それに〈主体〉の『知識体系』と『推論』のぶつかりという様相の過程となる」 (池上『記号論への招待』179 )。
「解読」と「解釈」のちがい
・「解読」= 定められた「コード」に従って受信者がメッセージの内容を読みとること。例えば、モールス信号の内容を受信者が受動的に読みとる行為がこれにあたる。「コード依存型」のコミュニケーションに見られる行為。
・「解釈」= 「コンテクスト」を参照しながら、発信者がメッセージ作成の際に想定していたと思われる「コード」を受信者が逆算的に推定して読みとること。例えば、「ナンセンス詩」を受信者が主体的に推論しながら読みとる行為がこれにあたる。「コンテクスト依存型」のコミュニケーションに見られる行為。
(池上『記号論への招待』48 )
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コミュニケーション 【communication】
「コミュニケーションとは、言うならば、自分が頭の中に抱いている〈抽象的〉な広義の思考内容のコピーを
相手の頭の中にも創り出す行為であると言える」 (池上『記号論への招待』37 )。
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しゅたい 【主体】subject
主観と同意味で、認識し、行為し、評価する我を指すが、主観を主として認識主観の意味に用いる傾向があるので、
個体性・実践性・身体性を強調するために、この訳語を用いるに至った ⇔ 客体 (「主体」『広辞苑』)。
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しゅたいせい 【主体性】subjectivity
主体的であること。また、そういう態度や性格であること (「主体」『広辞苑』)。
人間が主体性を確立する背景には、デカルトのように何ものにも依存しない独立的存在であろうとする批判的精神があった。
それは近代ヒューマニズムを育み、思想的文化的、社会的政治的変革の原点となったが、精神と物体、心と身体を対立させる
二元論を生み、物のみならず心の実体性をも否定するイギリス経験論に先鋭化する (「主体性」『岩波哲学・思想事典』)。
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すいろん 【推論】 inference
推理・推察によって論を押し進めること。また、単に推理 (「すいろん」『広辞苑』より)。
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ひゆ 【比喩】imagery
物事の説明に、これと類似したものを借りて表現すること。(「比喩」『広辞苑』より)。
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きけつ 【帰結】consequence
2.〔哲〕(consequence ) 何らかの事態を原因として、それから結果として生ずる状態。
または一定の論理的前提から導き出される結論。⇔ 理由 (「帰結」『広辞苑』より)。
※ 「帰結」=「結果」。したがって「事例 (=理由) 」→ 「帰結 (=結果)」の図式となる。
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じれい 【事例】case
2.個々の場合における、それぞれの事実 (「事例」『広辞苑』より)。
※「事例」=「理由」。 したがって「事例 (=理由) 」→ 「帰結 (=結果) 」の図式となる。
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「記号の本質的な働きのひとつ」
記号はさまざまな対象や現象の中から「同じ」意味や価値を選びだしてまとめる。つまり、記号は自らの視点に基づいて対象界に〈区分〉を入れる。この働きを「分節」と呼ぶことがある (池上『記号論への招待』76 )。
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ぶんせつ 【分節】articulation
記号はさまざまな対象や現象の中から「同じ」意味や価値を選びだしてまとめる。つまり、記号は自らの視点に基づいて対象界に〈区分〉を入れる。この働きを「分節」と呼ぶことがある (池上『記号論への招待』76 )。
したがって、結果として「分節」の働きには二つの方向性を看取することができる。つまり、「同じ」価値を有するという意味での等質性を強調する方向と、「異なる」価値を有するという意味での差異性を強調する方向である (池上『記号論への招待』76-77 )。
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「イーミック」な視点
「記号現象に対してその背後に想定されるコードとの関連で『同じ』と『異なる』を規定しようとする視点」 (池上『記号論への招待』79 )。
※〔研究〕対象の文化の一員として〔その文化が有する〕コードを重んじる視点。
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「エティック」な視点
「コードを想定することなしに規定を行なう視点」 (池上『記号論への招待』79 )。
※〔対象の文化コードに拠らない〕科学的・客観的な視点。
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「記号内容を規定する『指示物』」とは
「記号表現が示す特定の具体的な個体ないし事例そのもの」 (池上『記号論への招待』88 )。
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「記号内容を規定する『意味』」とは
「記号表現が適用されうるために指示物が満たしているべき条件」 (池上『記号論への招待』88 )。
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「記号内容の規定がとる形」とは
「記号内容の規定が一般に『指示物』とは違う次元の『意味』という形をとることは、重要な意義をもっている」 (池上『記号論への招待』98 )。
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「表示義」(外示、デノテーション、denotation )
「ある表現 (言葉、映像、記号) のなかに表れた字義どおりの意味。たとえば、『バラの花』の映像の場合、
象徴や暗示をふくまない、そこに見えている通りの外面的意味。→ 共示」 (ジェイムズ・モナコ『映画の教科書』414, 本演習スライドPDFファイル 「pp109-123_『表示義と共示義』」参照 )。
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「共示義」(共示、コノテーション、connotation )
「ある表現 (言葉、映像、記号) の一義的な意味を超えた暗示、比喩、象徴あるいは連想等による意味。→ 外示」 (ジェイムズ・モナコ『映画の教科書』411, 本演習スライドPDFファイル 「pp109-123_『表示義と共示義』」参照 )。
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担当:石井拓洋 ishii05042(a)venus.joshibi.jp
(2014-12-15)